千葉研究室

 今スマートフォンをはじめとして、私たちの身の回りには数え切れないほどのIT機器が存在します。これらの基になる電子技術「エレクトロニクス」の進歩は凄まじく、現在でもその成長は目覚ましいものがあります。ではこのような電子技術の発展はこの先もずっと続くのでしょうか?最前線の研究を覗いてみると、今後はそう簡単な話しではなさそうです。実は現在の電子技術の基盤となる物理は数十年前に確立されたもので、最近のデバイスの性能向上は主にデバイスサイズの微細化によって支えられています。しかし原子には有限の大きさがあるため、デバイスサイズを小さくするやり方では必ず限界が訪れます。さらにこの微細化に伴い電流のジュール熱を原因とした電力損失が深刻な問題となっています。そのため現在の電子技術が抱えるこのような壁を突破するには、基礎物理に立ち返って根本的な見直しをする必要がありそうです。


 このような状況で最近注目されているのが「スピントロニクス」と呼ばれる新たな電子技術です。実は電子は電気の性質の他に、磁気的な性質であるスピンをもっています。スピンとは簡単に言えば、電子が自転することで示す磁石の性質のことです(地球の自転と地磁気を思い浮かべてください)。従来のエレクトロニクスでは、電子の電気的な性質を電流として利用してきました。一方で磁石の性質であるスピンも「スピン流」という流れを生み出します(図)。電流と異なりスピン流にはオームの法則に対応する電力損失がありません。そのためスピン流は本質的に省エネルギーの情報源となることが期待されます。驚くことにスピン流はスピンを運ぶ担い手が存在すれば絶縁体中でも流れることができます(電流ではありえません!)。スピントロニクスはこのスピン流を活用することで、新機能デバイスや超省電力社会の実現を目指す「未来のエレクトロニクス」なのです。スピントロニクスによって将来「1ヶ月充電不要なスマートフォン」など夢のあるIT機器が実現されるのもそう遠くないかもしれません(図)。


 千葉研究室では、スピン流やスピントロニクスに関する物理の研究を行っています。例えば金属と磁石(絶縁体)からできた二層膜デバイスを考えて、スピン流を利用した「交流ダイオード」の原理を作っています。また特殊な絶縁体の磁石を活用して「スピン流のトランジスター」の動作原理を構築しています。この他にも数学を応用した特殊な物質の性質解明やスピントロニクスへの応用も研究しています。もしこれらの研究に興味がある方は、ぜひ「スピン流」、「スピントロニクス」といったキーワードを検索してみてください。